🌊『妹の七五三 』ー 波瀾万丈ライフ・番外編

妹の七五三の日

実家に帰省中の妹から、
私たちが幼い頃の写真が何枚も送られてきた。

懐かしいね、なんて軽い気持ちで開いたその中に、
一枚、胸をぎゅっと掴まれる写真があった。

妹、三歳の七五三。

ピンク色の小さなハット。
ふんわり広がるワンピース。
まだ幼さの残る丸い頬。

着物ではなかった。
それでも、あの日は確かに特別な日だった。

写真を見た瞬間、
忘れていたはずの空気まで蘇った。

あの日、母は仕事だった。

「すぐ帰るからね」と言って出ていったけれど、
予定の時間になっても戻ってこなかった。

私は妹と家で待っていた。

妹はもう支度を済ませていて、
ピンクのハットを何度も触りながら
そわそわしていた。

誰が準備を手伝ってくれたのか、記憶は曖昧だ。
きっと伯母だったのだろう。

私は普段、妹に意地悪ばかりしていた姉だった。

でもあの日は違った。

窓の外が少しずつ暗くなっていく。
西日が消えて、部屋の中の空気がひんやりしていく。

「神社、閉まっちゃうんじゃないかな」

子どもながらに、焦っていた。

夕方になって、ようやく母が帰宅した。

「神社が閉まっちゃう!」

そう言って、私たちは慌てて家を出た。

神社に着いた頃には、
もう境内は薄暗かった。

昼間なら賑やかだったはずの七五三参り。
でもそこには、私たちしかいなかった。

妹は不安そうに言った。

「飴、もらえないの?」

そして、ぽろぽろと涙をこぼした。

ピンクのハットのつばの下で、
小さな顔がくしゃっと歪んだ。

私はその横で、
なぜか母に腹が立っていた。

こんな日くらい、
早く帰ってきてくれたらよかったのに。

いつもは妹に強く当たる私が、
あの日だけは、妹が可哀想でならなかった。

ひっそりと参拝を済ませたその時、
社務所の奥から声がした。

「あー、よかった。千歳飴お渡しできるわ」

神主様のご家族の方が、
袋を持ってきてくれた。

あの瞬間の安堵は、今でも覚えている。

妹は涙を拭いて、
千歳飴の袋をぎゅっと握った。

そして、満面の笑顔。

本当によかった、と心から思った。

後日撮った写真館の一枚。

泣いた後の名残が少し残る顔で、
大きな千歳飴の袋を手に下げている妹。

袋は床に着きそうなくらい大きくて、
ワンピース姿の妹は本当に小さかった。

あの写真を見て思う。

完璧じゃなくても、
間に合わなくても、
誰かの優しさに救われる日がある。

そして私はあの日、
少しだけ「姉」になったのかもしれない。

家族の記憶は、
優しいものも、痛いものも、どちらも残る。

それでも私は、
あの頃の出来事を少しずつ書いています。

それが、私の波瀾万丈ライフです。

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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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