🍀「“あの女”とは言わないと決めた私──言葉にこだわる理由」

日本語って難しい──。
日常生活の中で、私はこの言葉をよく口にしています。

人に何かを伝えたり、教えたりすることが、あまり得意ではありません。
本を読むのは好きなのに、語彙力が足りないなと思うことが多いし、時には余計なひと言を言ってしまって、相手を不快にさせているんじゃないか…と考えることもあります。特に職場では「なるべく話さない方がいいのかも」と思ってしまうこともしばしば。もちろん、本当は楽しい話をするのは好きなので、完全に実践しているわけではないのですが。

そんな私でも「日常会話で絶対に言わない」と決めている言葉があります。
それは「あの女(おんな)」です。

このブログで連載していた「波瀾万丈ライフ」の『父じゃなくなった日と、離婚をしないと母が決めた日』の回から登場していた、父の再婚相手を指すときに使う言葉。文章に書くときには「あのおんな」と打たなければならず、毎回ズキズキと心が痛んでいました。

読んでいただく時には「あの女(ひと)」でしたから、最終回では思い切って「あの人」と書き換えたら、気持ちがずいぶん楽になったのを覚えています。

不思議なことに、友達が芸能人に対して「あの女」と言っているのを聞いただけでも耳障りに感じるんです。「あの男」なら平気なのに、なぜか「あの女」だけは拒否反応が出てしまう。
けれど「その女の人」とか「あの人」と言えば、意味は変わらないのに、響きがやわらいで気分も害されません。言葉って、それだけで人の心に影響を与えるものなんですね。

私は普段、言葉づかいが上品ではないですし、少し男っぽいと言われることもあるのですが、この「“あの女”だけは使わない」というのは、自分の中で大切にしているこだわりのひとつです。

そんなことを考えていた時期に、Amazonプライムで映画「舟を編む」を観ました。
辞書を編纂する人々の物語で、言葉をめぐる奥深さや、人と人との関わり方を描いた、とても素敵な作品でした。

中でも印象的だったのは、主人公が「新しい職場でうまく気持ちを伝えられない、話すことが苦手だ」と悩む場面。
それに対して下宿先のおばちゃんがこう諭すんです。

「他の人の気持ちがわからないなんて当たり前。わからないからその人に興味を持つ。
わからないから話をする。言葉を使う。頑張って喋らなきゃ」

──この言葉が、私の胸に強く響きました。

私はこれまで「話すことが苦手だから、余計なことを言わない方がいいかも」と後ろ向きに考えることが多かったのですが、この場面を観て、「伝わらないからこそ言葉が必要なんだ」と気づかされました。

話すことが苦手でも、自分のことを知ってもらうためには、やっぱり言葉にして伝えるしかないんですね。
それは難しいことだけれど、だからこそ大切にしていきたいと思います。

コメント