ある日、父と遊園地で待ち合わせをした。
私と兄、父方の従兄弟三人で、従兄弟のお母さんが車で送ってくれた。
父が迎えにきてくれたらよかったのに。
そう思いながら入り口で父を待っていると、父がやってきた。
その父の後ろに、女の人が立っていた。
父より少し若くて、綺麗な人だった。
「この女(ひと)は誰?」
私も兄も、父に聞くことはできなかった。
嫌な予感がしたからだ。
遊園地で楽しく過ごした記憶はあるけれど、父の表情も会話の内容も全く覚えていない。
ただ、私たち子供三人の頭の中にはずっと、
「誰? 誰? 誰?」
そればかりがあったのは確かだ。
家に帰ると母が「楽しかった?」と聞いてきた。
「楽しかったよ。・・・でも、女のひとが一緒に来てた」思わず言ってしまった。
母は相手が誰なのか、わかっていたのだろう。
「そう」
それだけの、そっけない返事が返ってきた。
私たちが寝たあと、母は父に電話をかけていた。
「どうして連れてきたの?」
怒りを抑えられない声が漏れ聞こえた。
当然だ。
あの女の人は、父が当時同棲をしていた彼女だった。
なぜ来たのかはわからない。
少し大人になってから思い出し、考えた。
彼女なりに不安だったのかもしれない。
「父が私たちと一緒に帰ってしまうんじゃないか」って。
同時に思った。
自分の存在をアピールして子供の心を傷つける
なんて「残酷なことをする人」なんだ、と。
ーーーそれからしばらくして、私たちは父の家を訪ねた。
母が赤ちゃんを抱っこしながら、あやしていた。
その時の、この光景は、強く脳裏に焼き付いている。
その赤ちゃんは、父と「あの女の人」の間に生まれた子だった。
私が少し大きくなってから、母に聞いたことがある。
「なんでお父さんちの赤ちゃんを抱っこできたの? だって嫌じゃない?」
母は笑って答えた。
「だって、すっごく可愛かったのよ。それに、子供には罪はないからね」
本心はどうだったのだろう。
妻としても、女としても、
私たち三人の子供のことを考えても、
はらわたが煮えくり返るような場面だっただろう。
もしも、あの時、私が大人だったら母を抱きしめた。きっと・・。
母は当時のことを思い出したように言った。
「そうそう、あの時彼女に言われたのよ。
『そんなに大事な人だったのなら、首に縄をつけておけばいいじゃない!!!』って。
そんなことできるわけないのにねー」と。
あの日、母は父を取り返しに行ったのだ。私たちを連れて・・
でも、そこには可愛い赤ちゃんが産まれていた。
その時、母は理解したのだろう。
父は、本当に帰ってこない人になったのだと。
でも、母は決めた。
・・・・・絶対に離婚はしない、と。
私たちに父親の存在を無くしたくない、という理由だったと聞いたことはあるけれど、やはり女としての意地もあったのだろう。
ーーー後に、ある出来事がきっかけとなり、母は父と離婚をすることになるのだが。
「強くなった母」と
私の中の「父じゃなくなった人」と
「ひどい言葉を口にするあの女(ひと)」の話。
【予告】
波瀾万丈ライフ、あと二話で完結です。
次回は、父亡き後、母が「あの女(ひと)」と再会する話。
そして最終話は、父が帰ってこられなかった衝撃の事実をお話しします。
これまで読んでくださった皆さまに、
母の強さと、あの時の家族の選択のすべてを最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
では、また次回に・・
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