🌊『養育費の電話と、祖父母のぬくもり』

事業の失敗で父が多額の借金を抱えたこと、
その返済を保証人となっていた母方の祖父がすべて肩代わりしていたことを、私が知ったのは、ずっと後になってからだった。

母は時々、祖父の家で電話をかけていた。
受話器の向こうにいたのは、父。
その声に応えるように、母の泣き声が聞こえてくる。
「……養育費、送って……」
そんな言葉が、漏れ聞こえていた。

父がどんな返事をしていたのか、私は知らない。
そして、今も知らない。

私は別の部屋で、小さく丸くなっていた。
「お母さん、大丈夫かなぁ?」
そう祖母にたずねると、祖母は何も言わず、
大きくて温かい手で、私の頭をやさしく撫でてくれた。

祖父は隣の部屋で、静かにため息をついていた。
その足元では、生まれたばかりの妹が、すやすやと眠っていた。

私たちが、それでも生きてこられたのは、
この祖父と祖母の存在もあったと、心から感謝している。 

涙と不安の中の、あったかい記憶。
今の私をつくってくれた、大切な記憶。

🔸次回予回
次回は、父と母の若き日の物語へ。
あの2人にも、確かにあった“はじまり”の記憶を綴ります。

🔷そして最終回ではーー
父の最期、兄が直接聞かされた”帰ってこられなかった本当の理由”。衝撃の真実は、シリーズ最終回にて綴ります。

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